自律神経は変化して当然|「自律神経の乱れ」を考える

自律神経は変化して当然 体の仕組み

こんにちは。
鍼灸師オサダです。

「自律神経が乱れている」
最近、本当によく耳にする言葉です。
疲れが取れない、眠れない、頭が痛い、なんとなく身体がだるい。
そんな不調があると、自律神経が乱れているのかもしれないと。

テレビやSNSでもよく見かけますし、整骨院、鍼灸院など、身体に関わる専門家が使っていることも少なくありません。

僕も鍼灸師として日々身体に関わる仕事をしていますが、以前からこの言葉には少し違和感がありました。

自律神経の乱れとは

そもそも、自律神経が乱れるってどういうことなんでしょうか。
交感神経が活発になること?
副交感神経がうまく働かなくなること?
それともなにか別の状態を指しているのでしょうか。

もちろん自律神経の働きに問題が起こることはあります。
ただその前に知っておきたいことがあります。

自律神経というのは、そもそも絶えず働きを変化させているものだということです。

例えば、椅子から立ち上がったとき。
僕たちの身体では、重力によって血液が下半身に移動します。そのままでは血圧が下がってしまうため、身体は心拍数や血管の収縮を調節して、血圧を維持しようとします。

寒いときには皮膚の血管を収縮させて熱を逃がしにくくし、暑いときには汗をかいて体温を調節する。
食事をすれば消化管の働きが変わり、運動をすれば心拍数も上がります。
こうした日常の何気ない反応にも、自律神経は関わっています。

つまり、自律神経は一定の状態で働き続けることが正常なのではなく、身体の状態や周囲の環境に合わせて、その働きを変化させることが正常です。

自律神経のバランス

僕たちの身体には「恒常性(ホメオスタシス)」という仕組みがあります。
これは身体をいつも同じ状態に固定するということではありません。
周囲の環境が変わっても、例えば体温や血圧などを生命活動に必要な範囲に保とうとする仕組みです。
そのためには、身体のさまざまな機能が変化する必要があります。
そう考えると自律神経の働きが変化していること自体を「乱れ」と表現するのは、少し違う気がするんです。

では一体どこからが正常な変化で、どこからが乱れなのでしょうか。
ここを曖昧にしたまま僕たちはこの言葉を使っていないでしょうか。

交感神経の興奮は良くないみたいな話

自律神経の話になると、必ずと言っていいほど登場するのが交感神経と副交感神経です。
交感神経は活動や緊張、副交感神経は休息やリラックス。
こうした説明を聞いたことがある人も多いと思います。
大まかな働きを理解するには、わかりやすい説明です。
ただ、いつの間にか交感神経は悪いもの、副交感神経は良いものとして扱われているようにも感じます。
「交感神経が優位だから身体が不調になる」
「副交感神経を優位にすれば健康になる」
そんな説明を見かけることもあります。
でも交感神経は決して悪者ではありません。
運動するときに心拍数が上がることも、立ち上がったときに血圧を維持することも、僕たちが生きていくために必要な反応です。
もし必要な場面で交感神経が適切に働かなければ、それこそ身体に問題が生じてしまいます。
そして、もう一つ知っておきたいのは、交感神経と副交感神経が必ずしもシーソーのような関係ではないということです。

交感神経が悪いと言う考え

片方が活発になったら、もう片方が必ず抑えられるというほど単純ではありません。
そもそも、心臓や血管、消化管など、それぞれの器官によって神経の働き方は異なります。
全身の自律神経を一つのバランスとして捉えることには、少し無理があるんですね。

大切なのは、交感神経が優位なのか、副交感神経が優位なのかということだけではなく、今の身体に必要な調節が行われているかどうか。そして身体に求められている働きに適応できているのか。
僕はそこが自律神経の反応として理解する上で大事だと思っています。

では自律神経は乱れないのか

ここまで読むと、自律神経が乱れるという考え方自体が間違っているように感じるかもしれません。
でも、そういうことを伝えたいわけではありません。

自律神経の調節機能に問題が生じることは実際にあります。
先ほど例として挙げた立ち上がったときに血圧を適切に維持できず、めまいや失神などが起こる起立性低血圧もその一つです。

自律神経の機能に障害が生じる病気もありますし、慢性的なストレスや睡眠不足などが、自律神経系の活動や反応性に影響することも知られています。
自律神経が変化することは正常でも、その調節がうまく働かなくなることはあるということです。
ここはきちんと分けて考える必要があると思っています。

そして、もう一つ大切なのが症状があることと、自律神経の機能に問題があることは、必ずしも同じではないということです。

疲れやすいから、交感神経が過剰に働いている。
眠れないから、副交感神経が働いていない。

そんなふうに、症状から自律神経の状態を直接判断することはできません。
自律神経が関係している可能性はあっても、それだけで原因が説明できるとは限りません。

「自律神経が乱れている」で、話が終わっていないか

例えば、患者さんから「最近、眠れないんです」と相談されたとします。
そのとき、「自律神経が乱れているのかもしれませんね」と説明することは、それほど難しいことではありません。
ただ少し考えてみたいのは
その人は、なぜ眠れないのでしょうか。
考える事が山積みで眠れないのかもしれません。
仕事が忙しくて生活リズムが不規則になっているのかもしれません。
家事や育児に追われて、ゆっくり休む時間が取れていないのかもしれません。
何か心配事があって、夜になると考え込んでしまうのかもしれません。

もちろん、睡眠障害や内科的な疾患など、医学的な評価が必要な場合だってあります。
同じ「眠れない」という症状でも、その背景は人によって違います。

自律神経が関係はしていますが、それはあくまで複数ある仮説の一つであり要素の一つかもしれません。

それなのに、「自律神経が乱れている」という言葉だけで説明を終えてしまったら、どうでしょう。
患者さんは、自分の不調の原因がわかったように感じるかもしれません。
そして説明した人自身も身体の状態を理解できたように感じてしまうかもしれません。
でも実際には、なぜ眠れないのか、身体の中でどんなことが起きているのか、まだわかっていないことがたくさんあるはずです。
僕は、ここにこの言葉の危うさがあると思っています。
わからないことに名前をつけることと、わからないことを理解することは、同じではありません。
これは、僕自身も忘れないようにしたいことです。

「自律神経を整える」という言葉も考えてみたい

鍼灸や整体の世界では、「自律神経を整える」という言葉もよく使われています。
施術を受けて身体が楽になったり、呼吸がしやすくなったり、気持ちが落ち着いたり。
そうした経験がある人もいると思います。それは大切な変化です。

だからといって自律神経が整ったと言えるのでしょうか。
そもそも、何がどのように変化したことを「整った」と表現しているのでしょう。
身体が楽になったという事実と、自律神経の調節機能が常に正常化したということは、必ずしも同じではありません。
例えば施術後に心拍数が下がったとしても、それだけで自律神経全体が整ったとは言えないはずです。
だからといって、施術に意味がないと言いたいわけではありません。

むしろ逆とも考えられます。
施術によって起こる変化を大切にしたいからこそ、その変化をできるだけ丁寧に捉え、
痛みが軽くなったのか。
関節が動かしやすくなったのか。
呼吸がしやすくなったのか。
安心して身体の力を抜けるようになったのか。
それぞれの変化には、それぞれの意味があります。

そのすべてを自律神経という一つの言葉で説明する必要はないと思うんです。

そして僕たちは、変化が起きたことだけでなく、なぜその変化が起きたのか、ほかにどんな可能性があるのかを考え続ける必要があると思います。

もちろん、すべての反応について明確な答えが出せるわけではありません。
それでもわからないことを簡単な言葉で片づけないことはできるはずです。
それが私たちが勉強をし続けなければいけない一つの理由かと思います。

身体のことを考えると、その人の生活が見えてくる

僕は身体を理解しようとするとき、その人がどんな生活を送っているのかも大切にしたいと思っています。
例えば、同じ肩こりでも、一日中デスクワークをしている人と、子どもを抱っこする時間が長い人では、身体にかかっている負荷も違います。
同じ疲労感でも、十分に眠れない日が続いている人と、長時間の労働が続いている人では、考えるべきことが違うかもしれません。
身体の構造的な問題、生理的な調節、心理的な負担、そして生活環境。

それぞれが独立しているわけではなく、互いに影響し合いながら、今の身体の状態につながっていることがあります。
だからこそ、症状だけを見て答えを出すのではなく、その人の話を聞いて、身体を評価して、いくつかの可能性を考えていく。

そして、介入した結果を確認し、必要であれば考えを修正する。

もちろんこれ自体も簡単ではないことも実感しています。
話を聞いても、評価をしても、はっきりとした原因がわからないことはあります。
僕自身、日々勉強しながら、わからないことに何度も出会います。
でも、だからこそ考え続けたい。
一つの言葉で答えを出したことにするよりも、まだわからないことがあると認めた方が、その人の身体に近づけることもあるんじゃないでしょうか。

身体はそんなに単純じゃない

結局ここに行き着きます。

今回の話は、自律神経に限ったことではないと思っています。
「姿勢が悪いから」
「筋肉が硬いから」
「骨盤が歪んでいるから」
「ストレスが原因だから」
僕たちは、ときに複雑な身体の仕組みを、一つのわかりやすい言葉で説明しようとします。
もちろん相手にわかりやすく伝えることは大切です。

専門用語をたくさん使えば、良い説明になるわけでもありません。
わかりやすくすることと、単純に考えてしまうことは違うと思うんです。
僕たちが何気なく使っている言葉によって、見えなくなっているものがあるのかもしれません。

「自律神経が乱れている」

この言葉自体を根っから否定したいわけではありません。
ただもしこの言葉を使うのであれば、なぜそう考えたのか、身体のどんな働きに問題があると考えているのかは忘れてはいけません。

そして今お悩みの人も自分の不調をすべて「自律神経の乱れ」だと決めつける必要はないかと思っています。

人それぞれの生活も、そこに至る背景も、きっと僕たちが思っている以上に複雑です。
「自律神経が乱れていますね」
そう説明したとき、僕たちはその人の身体について、何を理解できているのでしょうか。
その人自身は自分の身体について何を理解できたのでしょうか。
僕自身も、まだまだわからないことばかりです。

だからこそ安易に答えを出すのではなく、目の前の人と一緒に考えていける専門家でありたい。
自律神経の乱れという言葉が、考えることを終わらせる言葉ではなく、身体を理解するための入り口になってくれたら。
そんなふうに思っています。

自律神経の不調に悩んでいる方へ

ここまで読んで、「じゃあ、自分が感じている不調は何なんだろう」と思った方もいるかもしれません。
僕は、自律神経の乱れという言葉を否定したいわけでも、皆さんが感じているつらさを否定したいわけでもありません。
ただ少し考えてほしいことがあります。
「自律神経が乱れている」という言葉そのものが、知らず知らずのうちに、自分を苦しめる呪縛になってはいないでしょうか。

眠れない日があると、自律神経が乱れているからだと思う。身体がだるいと、また自律神経の調子が悪いのかもしれないと不安になる。
そうして、いつの間にか自分の身体に起きるさまざまな変化を、すべて自律神経の乱れと結びつけてしまうこともあるのかもしれません。

身体は毎日同じ状態ではありません。疲れる日もあれば、よく眠れる日もある。環境や生活によって、身体の状態が変化するのは自然なことです。


だからこそ、何が乱れているのかを探し続けるだけでなく、どんなときに自分の身体が少し楽になるのか、どんな生活のリズムが自分に合っているのか、そんなことにも目を向けてほしいと思います。
朝の過ごし方かもしれませんし、仕事と休息のバランスかもしれません。
誰かと話す時間や、何も考えずに過ごせる時間なのかもしれません。

その光の見つけ方は明確な答えがあるわけではなく
人によっては読書かもしれない、運動かもしれない、食事かもしれないし、施術かもしれないし、人との出会いかもしれない。
そしてそれは何もしないという選択の中に生まれる余白からかもしれません。

ただ、自律神経を整えなければと頑張ることが、かえって自分を追い詰めてしまうこともあると思うんです。
自律神経を整えること自体を、毎日の目標にしなくてもいい。
大切なのは、自分の身体を知り、自分に合ったリズムを少しずつ見つけていくことではないでしょうか。
僕はそのきっかけを一緒に探せる存在でありたいと思っています。

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